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新海誠監督「第7回三鷹コミュニティシネマ映画祭」の特集上映で自身の映画作りを語る

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トークショーをおこなった新海誠監督(右)と、トークショーの聞き手をつとめた国立天文台天文情報センター広報普及員の内藤誠一郎さん
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 三鷹市民有志らの手により毎年開催されている“手づくりの映画祭”「三鷹コミュニティシネマ映画祭」が11月19日に三鷹産業プラザで開幕し、「新海誠監督特集」として最新作『君の名は。』が大ヒット中の新海誠監督の旧作4作品の上映と監督のトークショーがおこなわれました。

 今年で7回目を迎える「三鷹コミュニティシネマ映画祭」は、現在は映画館がない三鷹に映画館を! を合言葉に開催されている映画祭。
 三鷹に映画館がないことを今日まで「存じあげなかった」という新海監督は「三鷹ってスタジオジブリもありますし、アニメーションの作り手がたくさん住んでいますよね。ぼくもちょうど2年前に『君の名は。』の作画監督をしてくださった安藤雅司さんに“『君の名は。』に参加していただきたい”とお願いしに三鷹に来たんです」と三鷹の思い出を語り「駅前の喫茶店で脚本を読んでもらって“前向きに考えてもらえれば嬉しいです”とお話ししたのが2年前で、2年経って、ほんとに作品が無事に完成して、思っていたよりたくさんの方に観ていただける作品になってよかったなと。そのことを思いながら今日来ました。三鷹はそういう場所なので、まさか映画館がないなんて。この先、そういう施設(=常設の映画館)を実現するためにこの場があるのでしょうから、つながっていけばいいと思います」と、映画祭への応援の言葉を贈りました。
 トークショーの聞き手をつとめた国立天文台天文情報センター広報普及員の内藤誠一郎さんは「三鷹は制作会社が多いだけではなくて新しい作家が活動している場所でもあるんです。『三鷹インディーズアニメフェスタ』というのを毎年やっていて、新しい作り手たちが自分の作品を発表して観てもらうという登竜門のようなことをやっています。新海さんもDoGAのCGアニメコンテストからスタートされていて(※)、そういうことを三鷹市のイベントでやっていますので興味のある方はインディーズアニメフェスタを覗いていただくと“第何番目の新海誠”になる人が出てくるかもしれません」と、三鷹市のアニメへの取り組みを紹介しました。

※新海監督はパーソナルCGアニメを振興する団体・DoGAが主催する第12回CGアニメコンテスト(2000年開催)において『彼女と彼女の猫』でグランプリを獲得している。

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トークショーの聞き手の内藤さんは「ただの(監督の)ファンなんですよ」と、2005年に池袋の書店のサイン会に並んでもらったという新海監督のサイン入りコミック版『ほしのこえ』コミック版を持参

 トークショーは内藤さんの質問に新海監督が答えるかたちで進行し、新海監督作品に共通して見られる「離れてしまった距離をなんとかして追いかけようとする、あるいは追いかけ方がわからない人たち」というモチーフについて新海監督は「すごく好きになってしまった人がある日突然いなくなってしまうというシチュエーションが好きなんですね。“突然の好きな人との断絶”みたいなものを描きたいという気持ちがずっとあって」と答え、村上春樹さんの小説「ねじまき鳥クロニクル」も例に挙げ「大事な人が突然いなくなるというのは、自分になにかをつきつけられる出来事だと思うんです。“ぼくたちの間になにか悪いところがあったんだろうか”とか“受け入れることができず追いかけていくと決心するのか”とか、自分に対する巨大な問いになると思うんです。それは物語を駆動するための巨大なエンジンになりますから、そういう気持ちでいなくならせてているんだと思いますね」と分析。
 また、やはり新海監督の複数の作品に登場する「並行世界(パラレルワールド)」について監督は「物語とか人間の想像力というものがそもそも並行世界のようなものなんじゃないのかという気がするんです。たとえば、ぼくはアニメーション監督にならなかった自分というのが、あるいは『君の名は。』という映画が当たらなかった自分がどこかにいるような気がするんです。東京に出てこなかった自分だっているよなって思うんですよ。じゃあその自分はどんな自分だったんだろう、どっちの自分が幸せだったんだろうみたいなことを考えていると、映画作りってそれと共通するのかなと思うし、映画のキャラクターの行動を考えることってそれと同じなのかなと思うんですよ」と説明し、逆に内藤さんに「現代宇宙論って、並行世界をどこまで現実らしきものとして扱っているんですか?」と質問。現代科学の立場からの内藤さんの解説に新海監督は「実際に自分と似た存在がいるかどうかは別にしても、ぼくはなんだか(似た存在が)いるような気がするんです。それは人がなにかに共感するとか誰かのことを想像するということそのものだから、人の思いやりの源泉って並行世界的ななにかじゃないかって思ったりするんです」と感想を述べました。

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内藤さんの最新宇宙論による並行世界の解説に興味深そうに耳を傾ける新海監督

 新海監督は、自身の映画作りの本質を「きっとラブレターみたいな気持ち」と表現。『君の名は。』製作時に音楽を担当したRADWIMPSの野田洋次郎さんに脚本を送ったところ「前前前世」と「スパークル」という映画で使われている2曲が「ラブレターの返信」としてできあがり「本当にこの先こんなに幸せな手紙のやり取りはないんじゃないかと思った」というエピソードを紹介し「映画ができて、観客に届くことも手紙が届くことだと思うんですよね。観客のみなさんから直接の言葉じゃないこともあるけど、なにかが戻ってくるというのは返信だと思うので、ぼくの映画の中のモチーフで手紙が多いのは、気持ち的に映画そのものが手紙だと思って作っているからという理由は大きいと思いますね」と話しました。

 トークショーではさらに観客のみなさんからの質問に監督が直接答える質疑応答の時間も設けられ、新海監督はひとつひとつの質問に丁寧に解答。少しでも多くの方々の質問に答えてもらおうという映画祭スタッフの判断もあり、予定の時間を延長してギリギリの時間まで質疑応答はおこなわれました。

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観客の方々の質問に丁寧に応える新海監督

 「三鷹コミュニティシネマ映画祭」は、現在は常設の映画館がない三鷹に映画館をと望む三鷹市民有志と三鷹市の第三セクターの協働により開催されている映画祭で、かつて三鷹にあった名画座・三鷹オスカー経営者を父に持つ鶴田浩司さん(元・三鷹オスカー番組編成)と鶴田法男監督(映画監督)兄弟がスーパーバイザーをつとめ2010年より年1回開催されています。
 第7回となる今年は19日(土)、20日(日)、23日(水・祝日)の3日間開催。20日には三鷹オスカー1日だけの復活として『ぼんち』『東京オリンピック』の市川崑監督特集を上映(希望の方にはバリアフリー活弁士・檀鼓太郎さんによるバリアフリー音声ガイド付きで上映 ※要予約)、23日には午前中に市川崑監督『野火』の上映、午後は新作『この世界の片隅に』が好評の片渕須直監督の特集上映とトークショーがおこなわれます(片渕監督特集のチケットは完売・当日券販売はなし)。
 また、映画祭会場に近い三鷹中央ビル内にある天文☆科学情報スペースでは、映画祭連携企画として「新海誠監督作品展」が開催されており、映画祭で上映された『星を追う子ども』『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』のメインビジュアルや絵コンテ、場面カットなどが11月27日(日)まで展示中。27日にはトークショーで聞き手をつとめた内藤誠一郎さんによる映画祭連携企画記念講座「彗星の運ぶもの」が開催されます。

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