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「第7回三鷹コミュニティシネマ映画祭」で片渕須直監督が語る「アニメーションは想像力の賜物」

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トークショーをおこなった片渕須直監督(中央)と、聞き手のフリーライター・廣田恵介さん、ゲスト参加のたちばなことねさん。壇上には片渕監督の最新作『この世界の片隅に』の主人公・すずさんのパネルも
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 三鷹市民有志により三鷹産業プラザで開催されている“手作りの映画祭”「三鷹コミュニティシネマ映画祭」で11月23日に「片渕須直監督特集」が開催され、現在公開中の新作『この世界の片隅に』が話題となっている片渕須直監督の旧作2本の上映と監督のトークショーがおこなわれました。

 『アリーテ姫』(2001年)と『マイマイ新子と千年の魔法』(2009年)の上映に続いておこなわれたトークショーは、アニメ関係の執筆活動も多いフリーライターの廣田恵介さんが聞き手となって進行。まずは城のお姫様が自分の力で道を切り開いていくストーリーの『アリーテ姫』について「(制作会社・スタジオ4℃の)準備室が三鷹にあったんです」という三鷹との縁が明かされました。
 さらに『アリーテ姫』について、原作となったイギリスの童話「アリーテ姫の冒険」に加えて、有名なアメリカのファンタジー小説「ゲド戦記」の2巻「こわれた腕環」の「名前を奪われた女の子が本来の自分の名前と自分の個性を取り戻す」というストーリーが影響を与えていることも紹介され、片渕監督は「『アリーテ姫』(の原作)にそういうものと足したいなというよりは、わりと普遍的なことだなと。『この世界の片隅に』も半分は同じようなストーリーだなと思っていて、名前が変わった中で自分自身を見つけていくということ」と、『アリーテ姫』と最新作の共通点に触れました。

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トークショー中の片渕須直監督と廣田恵介さん

 山口県防府市を舞台に、小学3年生の少女が千年前の平安の時代にこの地に生きた人々の生活を思い描く『マイマイ新子と千年の魔法』は、芥川賞作家・髙樹のぶ子さんの小説「マイマイ新子」が原作ですが、劇中の多くを占める千年前の描写は映画オリジナルで加えられたもの。片渕監督はその理由について「アニメーションって、ある種想像力の賜物というか、想像力をどこかで語っていくことになるのかなと思ったので、そこの部分を見せたいと思ったし、なにより千年前にそこに町があった姿をイメージするのがすごく面白そうだったんですよね。面白そうって言っているうちは楽だったんですけど(笑)」とコメント。映画制作にあたっては舞台となった防府市の発掘調査書をできるかぎり入手して町の姿の移り変わりを調べた上で現地を訪れ「防府は初めて行った場所だったんですけど、昔の姿が半分二重写しになるというか、最初に車で通りがかったときに“ここは平安時代の海岸線が段差になっている”とかわかりましたし、それこそ映画の中で新子が体験しているみたい感じがつねに自分の中にあった感じでした」と振り返りました。

 トークの内容は現在公開中の『この世界の片隅に』にも及び、片渕監督はこうの史代さんによる原作マンガの映画化を思い立った動機を「ひとつは日常生活の細かいことを楽しそうにやっているところがよかったのと、もう1個は『アリーテ姫』『マイマイ新子』と並べると3本とも同じことをやっているようなところがあって、全部女の子の想像力の話なんですね」と説明し「『アリーテ姫』は自分の中の想像力で物語を作ることで自分を救ったし、『マイマイ新子』の新子はたぶん想像力で自分を支えていただろうし、同じように『この世界の片隅に』の主人公のすずさんという人も心の中に想像力を火種として持っている。だけど、彼女の住んでいるのが昭和19年、20年という戦時中の世界なので、生々しく戦争が襲ってくるという現実と彼女の心の中の想像力や彼女自身が拮抗できないんだけど、それでもなお想像力を保ち続けるという話かなと思って、それはいままで自分のやっていたことの延長上にあるみたいな感じがしたので、自分の手で映画にしたいなと思ったんです。(テレビシリーズなどでなく)映画でなければ嫌だったのは、前2本が映画だったからだと思うんですね」と、「想像力」をキーワードに語りました。

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トークショー後半では、『マイマイ新子と千年の魔法』『この世界の片隅に』に出演しているたちばなことねさんも参加しました

 トークショー後半には『マイマイ新子と千年の魔法』で“吉岡さん(主人公の同級生)”と“バー・カリフォルニアの女”の声を演じ(当時は喜多村静枝名義)、『この世界の片隅に』では“刈谷さん”の声を演じている、たちばなことねさんも参加。
 多くのアニメでは声の演出は監督とは別の音響監督という役職が担当しますが、片渕監督は「アニメーションって表現の半分は画面で半分は音声ですからね。音声もやらないと映画を作ったことにならないかなと思って」という理由から声の演出も自ら手がけており、たちばなさんは片渕監督の声の演出について「怖くはないです(笑)。こだわりは強くて、すごくわかりやすく細かく砕いて説明してくれるんですよ。頑張ってそこに近づくようにしようと」と印象を語りました。

 トークショーでは来場者からの質疑応答の時間も設けられ、片渕監督は『この世界の片隅に』で注目を集めた一般の方々から資金を募るクラウドファンティングについての質問に「もともと『マイマイ新子』をやったときに、わりと早く(劇場での)上映が終わっちゃったんですけど、上映を続けてくださいという署名活動を(トークショー聞き手の)廣田さんがやってくれて、それがクラウドファンディングの原型になっているんです。映画は自分たちだけが一生懸命“観てくれよ”と言っても始まらなくて、お客さんのほうがどれくらい観たいのかというのが大事で、廣田さんがあのとき署名活動でこれだけの数がいるんだと目に見えるかたちにされて、作った映画とお客さんの間にはいろんなステップがあるんですけど、そういうものに対して説得力を持つことにもなりますし、この映画にこれくらいのお客さんが味方についてくださっているんだということを示せたのがすごく大事で、それは『マイマイ新子』のときからずっと続いているような気がするんです」と答えるなど、ひとつひとつの質問に丁寧に回答しました。

 また、片渕監督はおじいさんが映画館の経営者で「うちの母親とかは映写機回せるんですよね(笑)」という環境で幼少期を過ごしたために身近に映画館があるということへの想いも強く、現在は常設の映画館がない三鷹市に映画館をと目標を掲げる「三鷹コミュニティシネマ映画祭」の今後に期待を寄せるメッセージも贈りました。

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トークショー終了後には片渕監督のサイン会も開催されました

 今回の「片渕須直監督特集」は、三鷹コミュニティシネマ映画祭実行委員のひとりである関根響一さんの熱意により開催された企画。
 片渕監督の話にもあったように『マイマイ新子と千年の魔法』は公開当初の成績が芳しくなく映画を観たファンの方々の力で徐々に広まった作品で、関根さんも「拝見して素晴らしいと思ったのに、上映してくれる映画館が少なかったり、どんどん上映回数が減らされたりというのが残念でならなくて」上映のための運動をおこなったひとり。その運動や映画の舞台・防府市を訪れるイベントなどを通じ片渕監督との交流も生まれ、企画発表当初から応援してきた『この世界の片隅に』の完成も近づく中で「『この世界の片隅に』が2016年公開予定となっていたので、今回の機会は逃せない、今年お呼びするしかないだろうという信念というか、それだけですね」と、今年の映画祭での特集上映と監督のトークショーを企画したもので、関根さんは「2010年から応援し続けて、思っていた以上の作品(=『この世界の片隅に』)を作っていただけて本当に満足ですし、さらには自分が三鷹コミュニティシネマ映画祭に関わっている中で映画祭にお越しいただけて、本当に嬉しいとしか言いようがないですね」と、念願の企画を実現させた心境を笑顔で語りました。

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片渕須直監督特集開催に尽力した三鷹コミュニティシネマ映画祭実行委員の関根響一さん(左)と片渕須直監督
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 「三鷹コミュニティシネマ映画祭」は、かつて多くの映画ファンに親しまれた名画座・三鷹オスカーの閉館後は常設の映画館がない三鷹に新たな映画館をと望む三鷹市民有志と三鷹市の第三セクターの協働により開催されている映画祭。三鷹産業プラザを会場に例年テーマを定めての特集や「三鷹オスカー 一日だけ、復活!!」と題した名画の上映をおこなっており、今年は11月19日、20日、23日の3日にわたり開催され新海誠監督、市川崑監督、片渕須直監督の3監督の特集で盛況のうちに幕を閉じました。
 来年の開催も予定されているほか、映画祭から派生した「三鷹シネクラブ」による活動などもおこなわれています。

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三鷹コミュニティシネマ映画祭実行委員の関根響一さん、片渕須直監督、三鷹コミュニティシネマ映画祭スーパーバイザーをつとめる鶴田法男監督(左より)。片渕監督と鶴田監督は1960年生まれの同い年で、片渕監督はおじいさんが映画館経営、鶴田監督は実家が映画館(三鷹オスカー)と、映画館に縁が深いという共通点も
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