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藤井秀剛監督と原案・宮沢章夫さんが“14歳”を語る 『狂覗(きょうし)』初日トークショー

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トークショーをおこなった藤井秀剛監督(右)と原案の宮沢章夫さん
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 中学校で教師たちがおこなう「秘密の荷物検査」を描いたミステリースリラー『狂覗(きょうし)』が7月22日にアップリンク渋谷で初日を迎え、藤井秀剛監督が原案の戯曲「14歳の国」の作者である劇作家・宮沢章夫さんとともにトークショーをおこないました。

 『狂覗(きょうし)』は、5人の中学教師が体育の授業で生徒不在となった教室で秘密裏の荷物検査をする中で、生徒たち教師たちの“闇”が露わになっていくさまを、現実と回想、妄想を交錯させながら描いていく作品。戯曲「14歳の国」の「体育の授業中に教師が秘密裏の荷物検査をおこなう」という設定に、映画独自のアイディアが加えられたストーリーとなっています。

 アメリカで映画制作を学んだ藤井監督は、映画作りで重要なのは「作品を1行で語れるかどうかという部分」だと語り、戯曲「14歳の国」の「“教師たちが生徒に内緒で荷物検査をする”という、そこの1行のプロットがあまりに魅力的すぎて惚れ込んじゃったんですね」と原案に惹かれた理由を述べ、そして9年前に新聞のコラムで読んだ「中学生たちが裏サイトで自分の性器を見せ合っている」という実在の事件と、やはり9年前に学校でのイジメと教師によるわいせつ事件の件数が過去最多となりその後も上昇を続けているという調査結果に「これはまずい状況」「なんとしても表に出していかなくてはならない」という想いから『狂覗(きょうし)』を企画したと説明しました。

 戯曲「14歳の国」は1998年に上演された作品で、宮沢さんは執筆の背景として、1997年に14歳の少年による連続殺人事件があったことや、90年代に中学生年代の暴力事件が社会で話題となっていたことを挙げ、そういう状況の中で「“教師が体育の授業中に教室で持ち物検査をする”という記事を見つけたときに、それってすごいなって思ったんです。それをやっている人たちって絶対に正しいと思ってやっているわけじゃないですか。正しいと思ってやっている人たちを端からみると極めて滑稽なんですよね」と、やはり実際の出来事が執筆のきっかけとなったことを明かしました。
 さらに宮沢さんは、関心があるのは「笑えるかどうかなんですよね」と話し「(藤井監督の制作の動機となった)性器を見せ合っているのはぼくは笑えない。そういうこともあるんだろうなと思ってしまう。教師が体育の時間に正しいと思って(持ち物検査を)やっているというのは、これは笑える」と、宮沢さんと藤井監督では興味の対象に違いがあることを指摘し「ぼくの資質と監督の資質は全然違って、ぼくの戯曲を映画化するときに資質の違いとか感性の違いとかで変化していくのが興味深かった」と語りました。

 また、宮沢さんは作品のタイトルについての話の中で「(『狂覗(きょうし)』を)1回目観たときは気づかなかったけど、2回目観たら『きょうし』ってティーチャーじゃないかって。急に気づいて笑っちゃったよ(笑)」と『狂覗(きょうし)』が「教師」とかけたタイトルであることに触れ、藤井監督はその指摘に「ダジャレです(笑)」と笑いつつ、藤井監督の好きな作品のひとつだというブライアン・デ・パルマ監督の『ミッドナイトクロス』(1981年・米)を例に挙げ「原題が『Blow Out』というタイトルなんです。訳すと(車のタイヤの)パンクという意味があるんですけど、裏の世界の用語で“殺す”という意味もあって、あとは“フィルムの拡大映像”という意味合いもあって、『ミッドナイトクロス』という映画の内容のすべてが詰まった最高のタイトルなんですね。そういうタイトルにぼく自身が惹かれるというのがあって」と、タイトルに込めた意図にも触れました。

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トーク中の藤井秀剛監督(右)と宮沢章夫さん(中央)、映画で教頭・小沢を演じトークショーの進行をつとめた納本歩さん

 トークの内容は戯曲「14歳の国」と映画『狂覗(きょうし)』の表現の違いにも及び、宮沢さんは「(藤井監督は)人物に焦点を当ててまず描いているじゃないですか、ぼくは空間ですよね。空間と状況ですよね。それをまずポーンと出して、そこで人はどう動くのかというふうに書くのがぼくのがスタイルだし、ベケット以来の不条理劇の劇作の方法で、それを乗り越えなきゃいけないと思うんですけど、そういった意味では監督の描き方というのはそれとは違って、ひとりの人物というのをそこに焦点を当てていくんだなという感じで観ていますけどね」とコメント。
 藤井監督はそれに答え「そこはそのとおりですよね。空間を描けるというのは舞台の面白さでもありますよね。映画というのはやはり誰かの主観で描くことがすごく重要視されるところがあって、だからそこは難しいところだなというふうにも思うところはあります。でも、ぼくの中では『狂覗(きょうし)』という作品は宮台(真司)さんが(映画に寄せたコメントで)おっしゃっていたように、メタファー的に“国”を描きたかったというのもあって、ちょっと俯瞰で描きたいなというのはぼくの中であったんですけど、やはり誰の主観で描くのかはすごく映画において重要になる」と話しました。

 トークショー最後には、宮沢さんは「この97年か98年に書いたものが、いまでも同じように描かれるというのは、要するに学校が制度が変わっていないんですよね。机の大きさが変わっていないとかね。ぼくが中学のときから同じですよ」と、14歳が集まる学校の状況があまり変わっていないのではないかと指摘。
 藤井監督は「この映画は低予算なんで、(劇中に出てくる)制服を用意するのにすさまじく苦労したんですよ。たかが20何着の制服を集めるだけですさまじく苦労をして、いろんな方々に制服を貸してくれって(笑)」と、中学校を舞台とした作品を製作する上での意外な苦労話を披露してトークショーを締めくくりました。

 杉山樹志さん、田中大貴さん、宮下純さん、坂井貴子さん、桂弘さんら、藤井監督が率いる映画制作チーム・CFAの俳優陣の出演により、現代に向けた真摯なメッセージをホラー・ミステリーの手法で描く衝撃作 『狂覗(きょうし)』は、7月22日(土)よりアップリンク渋谷(東京)で上映中のほか、8月19日(土)より別府ブルーバード(大分)、8月26日(土)よりシネ・ヌーヴォX(大阪)にて上映。
 アップリンク渋谷では7月29日(土)に映画にコメントを寄せている社会学者の宮台真司さんと藤井監督のトークショーがおこなわれ、大分、大阪での上映でも監督・キャストによる舞台あいさつなどが予定されています。

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