滝野弘仁監督が脚本家と少年の不思議なひと夏を描く『くまをまつ』が6月7日に東京のポレポレ東中野で公開されるのを前に予告編が解禁されました。
昨年開催の第37回東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門正式出品を経て公開を迎える『くまをまつ』は、亡くなった祖父が暮らしていた古民家に滞在して祖父の日記を題材に新作を執筆している脚本家のややこと、ややこの甥で夏休みの間ややこに預けられることになった8歳の少年・タカシが、夏を過ごす中で「土地の記憶」に触れてく物語。
石川県出身の滝野弘仁監督が、亡き祖父が住んでいた同県小松市滝ヶ原町の古民家に滞在して脚本を執筆し、その古民家や、かつて石の採掘がおこなわれていた石切場など、滝ヶ原町を中心にロケをおこない作品を生み出しました。
ややこを演じるのは、濱口竜介監督『親密さ』(2012年)で主演をつとめた平野鈴(ひらの・れい)さん。タカシを演じるのはテレビドラマなどに出演し今回が映画初出演となる子役の渋谷いる太さん。
そのほか、『雨の中の欲情』(2024年/片山慎三監督)など出演作が続く中村映里子さん、『すべての夜を思いだす』(2022年/清原惟監督)などの大場みなみさん、主演作『赦し』(2022年/アンシュル・チョウハン監督)などの松浦りょうさん、『逃走』(2025年/足立正生監督)などの内田周作さんら、実力派俳優が出演しています。
走る車の中のタカシのアップで幕を開ける予告編は、ややこの祖父が遺した日記らしき文章を読み上げる声に重なって、古民家の中や森の中を歩くタカシ、「なにか」を叩く男の姿と、夢か現実かわからない場面に続き、ややことタカシの町での生活が映し出され、後半は読み上げられるややこの書いたシナリオらしき文章とリンクするようなタカシの姿が。
「死んだ人の墓、掘り返すような真似、やめえや」「利用できるものはなんでも利用するもんね」「ややこさんって、奪える側の人間なんですよ」など、自身の周囲に題材を求めるややこを咎めるようなセリフも織り込まれ「創ること」がもたらす痛みが映画の大きなモチーフとなっていることを予感させます。
また、冒頭には、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターをつとめる市山尚三さんの作品へのコメントも挿入されています。
この予告編は第73回カンヌ国際映画祭批評家週間短編部門に正式出品された『とてつもなく大きな』(2020年)や『とおぼえ』(2022年)などの作品で高い評価を得ている映画監督・川添彩監督が制作にあたっています。
予告編で使用の東京国際映画祭プログラミング・ディレクター:市山尚三さんコメント
『くまをまつ』は不思議な映画だ。祖父が住んでいた古民家で少年がひと夏を過ごす、というプロットから想像されるようなノスタルジックな雰囲気はそこにはない。今、映っているものが現実なのか幻想なのか判断し難い不安定さが全編にあふれ、見る者の心は強く揺さぶられる。そのいい意味での不安定さを見事に体現しているのが平野鈴の独特な存在感だ。監督デビュー作にしてこの世界観を創り出した滝野弘仁の今後の活動からは目が離せない。
助監督として甫木元空監督作品、今泉力哉監督作品、宮藤官九郎監督作品などに参加しつつ自らの監督作も発表してきた滝野監督が、自らのルーツとなる場所で、生きていくこと、創作することについて向き合って生み出された『くまをまつ』は、6月7日土曜日より東京のポレポレ東中野ほか全国順次公開されます。