平穏な日々を過ごしていたはずの高校生カップルを主人公に、現代の「日常」を過ごす人々が直面する苦悩や孤独を描く遠上恵未監督『平坦な戦場で』(7月5日公開)の予告編が解禁。また映画監督の市井昌秀さんや映画評論家・映画監督の樋口尚文さんらによる新たな応援コメントも公開されました。
『平坦な日常で』は、恋人同士である早崎のぶえと村木智也、ふたりの高校生が主人公。ふたりが「性的搾取」と遭遇する姿を通して、属性への偏見や経済格差が蔓延する現代の「日常」を多面的に描いていきます。
監督は、自らの名前をタイトルにした『遠上恵未(24)』(2020年)がPFFアワード2020に入選した遠上恵未(とおがみ・えみ)監督。
早崎のぶえを『犬も食わねどチャーリーは笑う』(2022年/市井昌秀監督)や『春の結晶』(2023年/安川徳寛監督)などに出演する櫻井成美(さくらい・なるみ)さんが、村木智也をPFFアワード2020審査員特別賞を受賞した『未亡人』(2020年)では監督もつとめた野村陽介さんが、それぞれ演じてダブル主演をつとめています。
『平坦な戦場で』場面写真。櫻井成美さんが演じる早崎のぶえ(左)と、野村陽介さんが演じる村木智也
第24回TAMA NEW WAVE コンペティション部門入選 、うえだ城下町映画祭第21回自主制作映画コンテスト大賞受賞、カナザワ映画祭2023「期待の新人監督」部門で主演の櫻井成美さんが期待の新人俳優賞受賞と、2023年に各地の映画祭で高い評価を受けた『平坦な戦場で』が、7月5日より池袋シネマ・ロサで公開されるのをはじめ順次公開されます。
公開を前に解禁された予告編は、仲睦まじいのぶえと智也の姿などに続き、智也と女性の会話に重なって、のぶえと智也を巡るさまざまな日常の断片が映し出される、BGM一切なしで描かれるどこか抑圧的な空気を感じさせるものとなっています。
また、映画監督・古厩智之さんらの応援コメント、映画監督・脚本家・俳優の佐藤佐吉さんらの応援コメントに続く第3弾応援コメントとして、予告編でも使われている映画批評家の児玉美月さん、『台風家族』(2019年)『犬も食わねどチャーリーは笑う』などの映画監督・市井昌秀さん、映画評論家で『葬式の名人』(2019年)など映画監督としても知られる樋口尚文さんらが作品に寄せたコメントが公開されました。
映画批評家:児玉美月さん応援コメント
この社会では性的搾取や虐待の被害に遭う属性は圧倒的に女性のほうが多いが、この映画ではそれが智也という男子高校生として設定された。
『平坦な戦場で』はそうしてジェンダーを反転させ、別の角度、新たな視点からこの社会をまなざそうとしてみせる。
その意思はメインプロットに留まらず、物語の至るところに鏤められている。
スクリーンに映し出された平坦な光景に見えるそこではいったい何が変質し、何が水面下で蠢いているのか。観客はそれこそを注視しなくてはならない。わたしたちが闘わなくてはいけない「敵」は、そこら中に影を潜め、そしていつも凡庸な顔をしているものなのだから。
映画監督:市井昌秀さん応援コメント
万札をマグネットで冷蔵庫に貼り付ける父親に虫酸が走り、空気を読まないと生き抜けない友達関係にうんざりする。
繰り返される平坦な日常は、ただのコピペや反復ではない。
たった一つの亀裂でいとも簡単に崩れ、2人の高校生男女はより外の孤独な者たちと出会い、さらなる戦場へと導かれる。
私の心は散々かき乱されるが、孤独を知る者こそわかち合える微かな希望の表出に、ぼっと火が灯った。
安易な希望を描かない遠上監督の眼差しと姿勢に共感を覚え、この作品を通じて知らない者同士が繋がれたら素敵だなと想像しました。
映画監督:菊地健雄さん応援コメント
可笑しさはせつなく、哀しさはやるせない。遠上恵未監督は、そんな人間という存在のどうしようもない可笑しさや哀しさに対して、真正面から誠実に繊細に対峙している。淡々と繰り返される日常がふとしたはずみで変容したあとの、人の善意も悪意もとどかない向こう側は、どこまでもせつなくやるせない。でも、僕らが平坦な戦場で生き延びるために必要な人間関係はようやくそこから始まるのだ、と教えてもらった。
そして、この作品には、僕も知っている玉りんどさん、大河原恵さんが出演しているのだけれども、自分にはついぞ引き出せなかった彼女たちの魅力が画面に充満していた。そのことで密かに嫉妬を覚えたのは、ここだけの話である。
ライター:木村奈緒さん応援コメント
生きているかぎり、日常は常に戦場なのかもしれない。
しかし遠上恵未は、どのような環境下であろうとも、自分であろうとすることをあきらめず、目の前の違和感を、存在を、痛みをなかったことにしない。
その一点でもって、私は今後も遠上恵未の作品を観続けるだろう。
映画評論家・映画監督:樋口尚文さん応援コメント
この作品は、やさしく繊細な高校生カップルの動静から、この社会の息詰まる「平坦」さの呪縛をあぶり出す傑作だ。そのブレッソン的なショットの積み重ねは、静謐ななかにも尖鋭に、いかんともしがたい日常の閉塞感を描き出す。
そして乾いたセックスの売買をめぐる青春の悲喜劇を通して、遠上恵未監督はヒステリックなフェミニズム称揚やセクハラ批判の次元をしなやかに跳躍し、われわれを縛る不自由なこわばりを解くヒントを見せてくれるだろう。
『平坦な戦場で』は、7月5日土曜日より東京の池袋シネマ・ロサで、7月26日土曜日より大阪のシアターセブンで公開、愛知のシネマスコーレで順次公開されます。
『平坦な戦場で』あらすじ
高校2年、冬。早崎のぶえと村木智也は仲睦まじく過ごしていた。
ある夜、村木は路上で泣いていた女性を家まで送り届けるも、突然女性から「お金は払うから、抱いてほしい」と頼まれてしまう。
すでに断れる空気ではなく、村木はやむをえず女性を抱くことに。しかし、この経験がトラウマになった村木は、学校を休むようになる。
のぶえは村木のいない日常に、孤独を募らせていく……。