知多良監督の長編デビュー作で福井映画祭16THグランプリと長編部門観客賞をダブル受賞した『ゴールド』が10月25日に公開されるのを前に、マンガ家の文野紋さんら各界有識者が作品に寄せた推薦コメントが解禁されました。
『ロープウェイ』(2016年)など「恋愛と生活」を題材にした短編映画で高い評価を受け、2023年には池袋シネマ・ロサで特集上映も開催された知多良(ちた・りょう)監督の初長編となる『ゴールド』は、高円寺の路上ライブで出会い恋人となったミキと弘樹を主人公に、誰かとともに生きるために言葉を尽くす人々の姿を描いた作品。
『ゴールド』場面写真。小畑みなみさん演じる佐藤ミキ(左)と、サトウヒロキさん演じる西弘樹
知多監督は、当時東京を拠点に活動していたフォークシンガー・グッナイ小形さんと高円寺で偶然に知り合ったのをきっかけに、2020年にグッナイ小形さんの曲「きみは、ぼくの東京だった」のミュージックビデオ(MV)を監督。6分弱の長さの中でミキと弘樹という男女の物語を感じさせるこのMVから発展し、知多監督が自らの体験や取材・文献で得た情報を盛り込んで脚本を執筆、3年の月日をかけて長編『ゴールド』が誕生しました。
佐藤ミキ役に小畑みなみさん、西弘樹役にサトウヒロキさんと、「きみは、ぼくの東京だった」MVで主演をつとめたふたりが引き続き主演をつとめるのをはじめ、やはりMVに続いて出演となる松木大輔さんや、藤村拓矢さん、幸田純佳さん、関口蒼さん、小野孝弘さんらが共演。さらに、シンガーソングライターのKsayaka(けー・さやか)さんが歌唱とともに物語のキーとなる役で出演もしています。
劇場公開を10月25日に控え、『ゴールド』に寄せられた推薦コメントが解禁されました。
すでに『ゴールド』公式サイトに掲載されている実験映像作家・伊藤高志さんに加え、「新映画論」「ジブリの戦後」などの著書がある映像史研究者・批評家の渡邉大輔さん、メディア研究者の山内萌さん、「ミューズの真髄」などのマンガ家・文野紋さんや、『みなに幸あれ』(2023年/下津優太監督)『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2024年/近藤亮太監督)などの美術を担当する松本慎太朗さん、日本各地の映画祭・ミニシアター関係者が新たにコメントを寄せており、文野紋さんが「開始5分でもう好きになりました。」、松本慎太朗さんが「ここ数年の商業作品含めて本当によかったのでは? 背筋伸びました。」と評するなど、それぞれの表現で『ゴールド』の魅力が語られています。
映画史研究者・批評家:渡邉大輔さんコメント
あらゆる行為にレッテルが貼られるにもかかわらず名づけ得ない厄介な感情が増えていく。「寛容さ」や「自然体」を目指すほど息苦しく感じられる。
『ゴールド』は、一組の男女の出会いと別れを軸に、そんな私たちにとって、いかにも現代的でありつつ、普遍的でもある世界の一角を瑞々しく切り取っている。
砂粒のように孤独に散らばった彼らの生を、知多良のまなざしは、パンするカメラによって出会いの瞬間を不意に到来させ、あるいはまた穏やかな長回しによって静かに捉える。
その中の若い恋人たちの姿は、よるべなくも、この上なく愛おしい。ここには確かに、輝かしい時間がある。
メディア研究者:山内萌さんコメント
男とか女とか、本当はみんな何もわかっていないくせに、何か話したくなってしまう。
だから人は、昨日ネットで見た覚えたての言葉を使って自分の気持ちを表した気になりたがる。
フェミニズムだとかなんだとか、流行りの言葉が口をついては空転する。
自分の言葉で話してみろよ、目の前にいる人間とまっすぐ対話してみろよ。
そう言われた気がして、今日は終電を逃そうと思った。
漫画家:文野紋さんコメント
開始5分でもう好きになりました。
大量の本、古着、レコード、ポスター、謎の間接照明、別に植物に詳しいわけでもないのにサボテンとか置いちゃったりして、2人の時間には大好きな音楽が流れてて...。
人生の「ゴールデンタイム」を高円寺で過ごしたような人間はきっと、私と同じように、開始5分でこの映画を好きになると思います。
そして2時間後には泣いているんだと思います。
ずっとゴールデンタイムでいるには現代は複雑すぎる。でも、だからこそ、その日々は美しく、いつ振り返ってもキラキラに輝いているのだと思います。
シネマスコーレ副支配人:大浦奈都子さんコメント
「女/男」という性別で社会が押し付けてきた窮屈な価値観。
その価値観が生んだ生きづらさ、ままならなさが、「女/男」という視点の比重がどちらにも寄らないよう驚くほど細やかに描き出されていました。
それぞれが複雑な思いを抱えて生きるなかで、他者を「個」として扱うことができない人たちをも、「個」として描き出した演出があっぱれです!
実験映像作家:伊藤高志さんコメント
『ゴールド』やばいですね。
日本アカデミー作品賞をあげたいくらいです。
私、こんなに共感した作品はひっさしぶりです。
脚本、撮影、役者の演技、どれも素晴らしい。
パワハラや女性差別といった現代的な問題を若い登場人物たちが日常の中の喋くりで考える姿が説教くさくなく実にリアルでした。
2時間映画的な緊張感があって特にラストの時間を超えての対話は一本取られた〜!って感じです。
観客は二人がどうなっていくかを見てしまっているので、爽やかな愛の告白に聞こえない複雑さで胸が締め付けられます。心憎い演出ですね。
十三下町映画祭2024選考委員:若生俊亮さんコメント
私たちの生活をより良くするために生まれたはずの言葉や行動が、思わぬ角度から違う形をして襲ってくる。繊細で鋭利な台詞の一つ一つが抜け目なく、過去に傷ついた言葉、傷つけたかもしれない言葉を想起させる。どちらも恐ろしくてたまらなかった。
それなのに鑑賞後「折れても良い、生きていこう」と前向きに思えたのはなぜだろう。涙が溢れたのは、決して辛いからではない。振り返れば一瞬のゴールデンタイム。ゴミのような現実だとしても生活は続いていく。けれど一瞬でも輝いていたあの日々がきっと支えてくれる。そう信じさせてくれる。
有限会社第七藝術劇場取締役・シアターセブンイベントプロデューサー:福住恵さんコメント
ミキと弘樹の物語を軸にしつつも、他の登場人物一人ひとりにもストーリーがある。
スクリーンに映らない彼らの心のゆれを想像することは、
もしかしたら自分自身や周りの人や世界で起きてる出来事を少しでも理解するきっかけになるのかもしれない。
映画美術:松本慎太朗さんコメント
『ゴールド』は本当にやばかった。
刺さりすぎた。
作品的にも表現的にもキャスト的にも技術的にも......etc
言葉を尽くしきれない。
見終わった後しばらく息ができなかった。
胸がいっぱいになった。
個人的に琴線でした。
ここ数年の商業作品含めて本当によかったのでは?
背筋伸びました。
沢山の人に見てほしい。
誰もが「ありのまま」で生きていけるわけでは現実の中でひとりの人間の中の多様性を描き、国内5つの映画祭で6つの賞を獲得している『ゴールド』は、10月25日土曜日より東京のポレポレ東中野、11月29日土曜日より大阪のシアターセブンにて公開されるほか、名古屋のシネマスコーレなど全国順次公開されます。