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『KARATE KILL /カラテ・キル』光武蔵人監督インタビュー

インタビュー写真 行方不明となった妹を探すため単身アメリカへと渡った空手の達人・ケンジ。妹の足跡をたどるケンジは、狂信的カルト集団が妹を誘拐したことを知る。妹を救い出すため、ケンジの殺人空手が炸裂する!!
 『KARATE KILL /カラテ・キル』は、ロサンゼルス在住の日本人監督・光武蔵人監督待望の新作長編。空手師範でパルクールコーディネーターでもある新たなアクションスター・ハヤテさんが映画初主演をつとめ、紗倉まなさん、亜紗美さんらを共演に迎えたほぼ全編アメリカロケの娯楽アクションです。
 これまで『サムライ・アベンジャー/復讐剣盲狼』『女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN』とカルトな魅力を持った作品を送り出してきた光武監督は、『KARATE KILL /カラテ・キル』でも迫力のアクションと外連味あふれる演出で、往年のアクション映画のテイストを感じさせつつ、まだ誰も体験したことのない新鮮な興奮を届けてくれます。
 アメリカから日本映画界に刺激をもたらす光武監督は、なにを思い映画を作るのか!?

光武蔵人(みつたけ・くらんど)監督プロフィール

1973年生まれ、東京都出身。映画監督を目指して高校生のときに単身アメリカに留学。サンフランシスコ芸術大学を経てカリフォルニア芸術大学映画学科大学院で映画制作を学び、在学中に訪米中の岡本喜八監督の通訳をつとめる。大学院卒業後はコーディネーターやディレクターなどとして映像作品に携わり、2004年『モンスターズ』で長編監督デビュー。自ら主演もつとめた監督第2作『サムライ・アベンジャー/復讐剣盲狼』(2009年)は日本を含む16ヶ国に配給され、監督第3作『女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN』(2013年)がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014審査員特別賞を受賞したほか各国の映画祭で公式上映され、世界10数ヶ国に配給された。ロサンゼルス在住。

公式サイト:Kurand Mitsutake Official Website http://www.kurandomitsutake.com/

「キャラクターに感情移入ができたときにアクションというものが成立すると思うんです」

―― 『KARATE KILL /カラテ・キル』(以下『KARATE KILL』)は、どのような経緯でスタートしたのでしょうか?

光武:始まりは、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭なんです。ぼくが『女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN』(以下『女体銃』)という作品で参加したとき(2014年)に『KARATE KILL』を製作したマメゾウピクチャーズの第1弾長編の『少女は異世界で戦った』(2014年/金子修介監督)が上映されていて、エグゼクティブ・プロデューサーの久保(直樹)さんとプロデューサーの岡崎(光洋)さんが映画祭にいらしていたんです。それで、今回『KARATE KILL』に主演した俳優で空手家のハヤテも『少女は異世界で戦った』に出ていて、彼も「映画祭を体験したい」と自腹でゆうばりに来たんですが、宿が取れずに久保さんの部屋に転がり込んだんですよ。そこで久保さんと話していたら、久保さんは格闘技オタクなのでハヤテが空手を20年以上やっているというところに食いついて、その場でハヤテの空手を見せてもらったそうなんです。そうしたら、ハヤテの空手は久保さんでも知らないような空手だったらしいんですね。「手(ティー)」という空手以前の沖縄武術があるんですが、久保さんはそれをハヤテの空手に感じたそうで、そのときに久保さんの中でハヤテ主演で映画を撮るというアイディアが芽生えたんですね。そして久保さんが映画祭のコンペ作品を観にいったら『女体銃』という頭のおかしな作品をやっていて「この頭のおかしな監督にハヤテの空手映画を撮らせたら面白いんじゃないか?」というところが始まりなんです。ゆうばりの映画祭はいろいろな出会いのきっかけとなるんで「出会い系映画祭」と呼ばれたりしているんですが(笑)、ぼくも3回ほど参加させていただいて、ほんとに恵まれた出会いをしているんです。今回も、まさにゆうばりで出会った4人の男が運命の縁で映画を作ることになって、ぼくもハヤテも抜擢してもらったということなんです。

―― そうすると、主演のハヤテさんありきの作品というのがまず決まっていたわけですね。

『KARATE KILL /カラテ・キル』スチール

『KARATE KILL /カラテ・キル』より。ハヤテさん演じる主人公・ケンジ

光武:そうですね。ハヤテありきで、ぼくはアイドル映画を撮るつもりで出発した感じですね。彼の本物の空手をいかにアクション映画に昇華するかというのが、ぼくに課せられた任務だなというふうに思いました。

―― 今回に限らずですが、俳優さんありきで作品を作るというのは、監督にとってはどんな感覚なのでしょうか?

光武:たぶん、どんな映画も監督と主演俳優や出演者全員が、ある意味で共闘するというか共犯関係にならざるを得ないと思うんですね。そういう意味では、監督も俳優に頼るし俳優も監督のことを頼ってくれる相乗効果で映画を撮りたいとぼくは思っていますので、この人ありきでという企画ももちろん悩むところはないですし、逆に言うと映画ってそうあるべきなのかなと思ったりもしますね。

―― ハヤテさん主演ということでスタートした企画は、監督の中でどのように今回の『KARATE KILL』にたどり着いていったのでしょうか?

光武:やっぱり、ドキュメンタリーではないじゃないですか。本物の空手家であるハヤテが来て本物の空手をやるというときに、ぼくは空手についての映画にはしたくなかったんですよ。最近の格闘技映画ではアクションを見せることだけがテーマになってしまっていて、1時間も殴りあっているような映画もあるじゃないですか。ぼくは実はそういうものは苦手で、アクションのすごさというのはやっぱりストーリーありきキャラクターありきで、そのキャラクターに感情移入ができたときにアクションというものが成立すると思うんですよね。だから、お客さんがそのキャラクターに感情移入してくれていれば、1時間も殴り合いをしなくてもアクション映画というのは成立すると思うんです。なので、最初に久保さんに「空手についての映画ではなくて冒険活劇の映画として成立させたいんです」ということを自分の立ち位置としてお伝えして企画は始まりましたね。

「70年代、80年代のハリウッドB級アクション映画のヒーロー像がケンジのキャラクターの雛形」

―― 今回の主人公・ケンジのキャラクターはひじょうに魅力的なキャラクターになっていると感じました。ケンジのキャラクターを作る上で、監督がハヤテさんご本人に影響された部分というのはあるのでしょうか?

光武:うーん、いまではぼくはハヤテのことを親友だと思っていますが、それは映画撮影を一緒にやったという共闘関係を経てのことなので、最初にホン(脚本)を書いたときには、ぼくはハヤテには数回会っただけでほとんど知らなかったので、ホンを書く段階でハヤテに影響されたということはなかったですね。ぼくが単純に冒険活劇の主人公として「こういうキャラクターで行きたい」というのを書いて、それを読んだハヤテがだんだんケンジになっていったっていう感じですかね。ただ、ディスカッションはすごく重ねていて、ホンを読んだハヤテが「いや、ケンジはこういうセリフは言わないんじゃないんですかね」と言ってくることもありましたし、ぼくが「たしかにそうかもね」とセリフを変えていったりとか、ハヤテとぼくの共同作業でケンジ像というのは作り上げたと思います。

―― ケンジは寡黙でストイックなキャラクターですが、それを強調しすぎることなく自然なキャラクターとして作品内に存在しているように感じました。監督はケンジを描く上でどういうキャラクターを目指されたのでしょうか?

光武:ぼくの中では、70年代、80年代のハリウッドB級アクション映画のヒーロー像というのがケンジのキャラクターの雛形としてあったんです。たとえば『ダーティハリー』(1971年・米/ドン・シーゲル監督)の主人公のハリー・キャラハンのようなマッチョヒーローの雛形みたいなものがありますよね。そういうキャラクターに共通しているのは目的のためには手段を選ばないということで、実際にそういう人がいたらちょっとサイコパスじゃないですか。だから、猪突猛進型の、下手をするとサイコパス的なキャラクターとしてぼくは『KARATE KILL』のケンジを作って、ハリー・キャラハンの44マグナムがケンジの空手になったというアプローチでした。なので、それをリアルに見ていただけたというのはほんとにハヤテの手柄というか、ハヤテがケンジというキャラクターをちゃんと立体的な人間としてスクリーンの中に存在させてくれたんだろうと思います。それは我々の作戦は間違っていなかったということなのでひじょうに嬉しいのですが、ぼくのアプローチとしては、いまお話したような感じでした。

―― そういうキャラクターを主人公に置いたことで映画全体の方向性が決まっていったというところはあるのでしょうか?

光武蔵人監督インタビュー写真

光武:そうですね、ぼくはこれが監督作品4作目になるのですが、最初の『モンスターズ』という作品もその次の『サムライ・アベンジャー/復讐剣盲狼』という作品も、その次の『女体銃』も「復讐もの」なんですよね。リベンジものが続いていて、またリベンジ4連発はちょっとなと思ったので、ぼくの中では『KARATE KILL』は救出劇という位置づけなんです。でも、どうしてもぼくは復讐に引力を感じてしまうので復讐も入っているんですよね。それは「ハンバーガーを頼んだんだけどどうしてもチーズも付いてきます」みたいなものですね(笑)。ただ、あのケンジのキャラクターだったから救出劇になったというよりも、これはニワトリが先かタマゴが先かの話になってしまいますけど、救出劇にしようと思った瞬間からケンジのキャラクターもああいうかたちになっていったということでもありますね。

―― 作品を拝見して、ケンジが寡黙でストイックであるように、この『KARATE KILL』という作品自体も寡黙でストイックなところがあるのではないかと思いました。たとえばケンジがテキサスに向かう過程や、ケンジとケイコというキャラクターとの間の感情などをあまり説明しすぎない。その姿勢はケンジと似ているのではないかと。

光武:なるほど。こうしてお話させていただいておわかりだと思うんですが、ぼく自身が寡黙な人間ですので……いや、逆にぼくはよく喋るんですけど(笑)。やっぱり、ぼくが映画オタクになったのは1980年代にビデオバブルの時代に育っていたからで、中学生とかになるとお小遣いを貯めて日本に入ってくる前の映画を海外のVHSでレンタルしたり取り寄せたりしてハマっていくわけです。その輸入ビデオの体験の中でぼくがひじょうに感動したのはポール・バーホーベンの『ロボコップ』(1987年・米)で、日本に入ってくる前にアメリカ版のVHSで観て、そのときぼくは英語はわからなかったし日本語字幕も付いていないし、でも物語が全部わかったんですよ。そこで「活劇というのは言葉がわからなくても画だけで語れていなきゃダメじゃん」というのがぼくの中でひとつの大きな指針として植え付けられたんです。だから、いまでも海外の映画祭に行くと、小さな映画祭の場合はたとえばフランス映画ならフランス語だけの上映になることもあるので、そのときにセリフがわからないと話がわからないような映画はあまりよくないなと思ったりするんですね。映画が映画たる理由は画で物語を語ることだとぼくは信じているので、あまりセリフには頼りたくないなというところはあるんです。だから『女体銃』も『サムライ・アベンジャー』も細かい設定の部分とかは喋りで解決していたりしますけども、全体的な大きなストーリーの流れというのはそれこそ音を消してもわかっていただける作品になっていると思いますし、説明しすぎないというのはぼくの目指すところなので、そう言っていただけるのはありがたいです。

「大きな嘘を成立させるため細かい部分はリアルにしていくのがぼくの娯楽哲学」

―― 『KARATE KILL』の大きな魅力が「外連味」だと思います。監督のこれまで作品でも一貫して外連味があると思うのですが、今回の『KARATE KILL』では抑制しつつ外連味を出すみたいな、これまでと少し違う外連味の出し方をされているように感じました。それは監督は意識されていたのでしょうか?

光武:やっぱり、映画って外連味ありきだとぼくは思うんですよ。ドキュメンタリーを作っているのではなくて娯楽作品という位置づけの映画を撮っているので、映画自体がフィクションで大きな嘘じゃないですか。リアルな世界では、みんなが拳銃を持ってるようなロサンゼルスとかテキサスとかに行って空手だけでは勝てないわけですよ。なので、空手家が銃に頼らずカルト集団から妹を救出するという、それ自体が嘘ですよね。その大きな嘘を成立させるために細かい部分はリアルにしていこうというのがぼくの娯楽哲学なんです。だからぼくはトレーニングシーンフェチで、ぼくの映画の中には必ずトレーニングシーンが出てきて、そのトレーニングシーンを見せることによって「拳銃の弾をよけられる」みたいな大嘘が信じられるものになる。それも外連味で、それは必ずやっているつもりではあるんですけど、今回は違う外連味の出し方をしたという意識はぼくの中ではないんです。なので、ハヤテが本物の空手家で空手がリアルだから説得力があって、外連味があまり荒唐無稽に感じなかったということかもしれないですね。

―― アクションについてもおうかがいしたいのですが、今回は前作の『女体銃』と同じく田渕景也さんがアクション監督をつとめられていますね。監督からはどのようなかたちでアクションに関してのご意見やアイディアを出されたのでしょうか?

光武:ホンで書いていますね。アクションがフラットにならないように、ハヤテの怒りが5段階とか6段階とかで増してくるように書いているんです。たとえば、最初の何回かの闘いではハヤテは相手を殺してはいないわけですよね。キャバクラで怪しい日本人たちと5対1で闘うシーンなんかも、相手を気絶させてはいるけど殺してはいない。だんだんにプログレッションがあるかたちにしたかったので、そういうのはホンに書いてあって、あとは田渕景也に「ここのアクションのテーマはこういうことですから」ということはしっかりと伝えてあって、実際に田渕が考えてくれた殺陣をぼくが見て「いいね!」と言ったり「ここはもう少しこうしてもらえます?」というような感じで一緒に作っていったんです。

―― 今回、実際に空手家のハヤテさんを主演に迎えてのアクションで、どのようなアクションを目指されたのでしょうか?

光武:やっぱり、ハヤテがやっているのが特殊な空手なので、彼の空手をちゃんと見せるというのが趣旨でしたね。ふたつ難しい問題があって、ひとつの大きな問題は、ハヤテの空手の動きが地味なんですよ。カンフーのようで、しかも動きが小さいんです。たとえばパンチを出すにも腕を伸ばすと掴まれてしまう危険があるのでフルで腕を伸ばすことはほぼないんです。蹴りも、ハイキックなんかをやると絶対に掴まれる危険性があるから、あまり脚を高く上げないようにひざ上は狙わないんですよね。もうひとつは、ハヤテのやる空手は基本的にスポーツではなくて一撃必殺で相手を倒すための空手なので、いきなり目潰しを出したり相手の喉を潰したり金的を狙ったりするんです。まさに、さっきおっしゃった映画的な外連味がないんですよ。そのふたつの問題があったので苦労したのが田渕アクション監督で、ハヤテは本物の空手家としてハイキックなんかは「それはぼくの技の中にないから」ということでやりたがらないので、それは尊重しようと。だけど、映画のスタントをやっている田渕と本物の空手をやっているハヤテが、お互いにちょっとずつ歩み寄って、ハヤテが許せる範囲のリアリティで、田渕が欲している映画的殺陣でというせめぎあいのいいバランスでやったのが、今回のアクションだと思います。

―― 映画の後半、ケンジがカルト集団の本拠地に乗り込むところでは屋根の上でトンボを切るようなアクションもありますが、ああいうところがその田渕さんとハヤテさんの歩み寄った部分なのでしょうか?

『KARATE KILL /カラテ・キル』スチール

『KARATE KILL /カラテ・キル』より。紗倉まなさんが演じるケンジの妹・マユミ

光武:いや、実はですね、逆にあそこはフルでハヤテがやりたかったことだったりするんですよ。ハヤテは今回が主演デビューですが、もともと業界では日本に数人しかいないパルクール()のコーディネーターとして知られているんです。空手家であるハヤテがなぜパルクールを始めたかというと、ハヤテのような空手家でも1対多人数になると負けるらしいんです。こっちの人を相手にしているときにうしろから来られたらやられてしまうわけですね。昔の東映時代劇のようにうしろの人が待っているわけではないので(笑)。それを解決するのは1対1に持っていくことなんですって。ひとりしか通れないような路地に行けば相手が複数でも勝てるらしいんです。そのために、たとえば壁を飛び越えて逃げたりして相手を路地に誘いこむような方法としてハヤテはパルクールにたどり着いたらしいんです。自分の空手を最強にするためにパルクールを取り入れたんですね。だから、車を飛び越えたりトンボを切ったりして拳銃を持った複数の敵をひとりひとりやっつけていくというあそこの一連のパルクールチェイスは、そのハヤテの哲学を映像化したもので、ハヤテがアクションコーディネーターもやっていて田渕がサポートするというかたちでやっていたんです。複数を相手にするためのリアリティという感じですね。まあ、さすがに拳銃の弾をよけたりするところまではリアリティではありませんけど、そこはまさに「映画的な外連味もあります」ということですね。

―― 共演者の方々についてもうかがわせてください。今回は紗倉まなさんが演じるケンジの妹・マユミと、前作『女体銃』主演の亜紗美さんが演じるケイコと、ふたりのヒロイン的存在がいますが、紗倉まなさんと亜紗美さんに求められたのはどういうことでしょう?

光武:まなさんに関しては、彼女が物語の理由なので「こんな妹がいなくなったらアメリカに殴りこむでしょう」という有無を言わせぬ理由感というか、そこで疑問が生まれないような「揺るぎない理由としての存在感」を求めました。ほんとにミューズというか、女神のような存在でいてくださいと。だから、ほんとはまなさんはもっといろいろなことができる多面的な女優さんだと思うんですが、今回はあえて囚われのお姫様的役どころをフラットに演じていただいたという感じですね。
 亜紗美は、ぼくの『女体銃』を一緒にやって最高の共犯者だと思っていますので、今回は彼女に力を貸してもらったといいますか、ハヤテというぼくの映画の新ヒーローのために「姐さん一肌脱いでもらえますか」という力添えみたいな感じで出てもらいました。それから「光武映画の亜紗美だったらこうなるだろう」とみんなが思うであろうところをいい意味で裏切らせてもらうというか、そういう映画の中の仕掛けとしても大きく存在してもらったということですよね。『女体銃』のときはぼくはあえて彼女に喋らせずにセリフが1個しかなかったんですけど、今回はけっこう喋るというか映画の状況説明の一部を担ってもらいましたし、さっきおっしゃっていたケンジとの間の感情のような繊細な演技の部分をやってもらったりですね。

―― 今回は妹がマユミで亜紗美さんの役がケイコで、前作の『女体銃』では主人公がマユミでマスターマインドという登場人物の妻がケイコでと、同じ名前が使われていましたが、なにか特別な思い入れのある名前なのでしょうか?

光武:よくご覧になってますね、実はそうなんですよ(笑)。ぼくは潔い男ではないので、昔好きだった子のことが忘れられないんです。その大恋愛した女性の名前がマユミなので、ぼくの映画の運命の女は「マユミ」になってしまうんです。石井隆監督の「名美」は光武の「マユミ」だという感じですかね(笑)。それで、ケイコというのは恋愛の相手ではなくて、実は『サムライ・アベンジャー』の撮影監督だった中原圭子さんというカメラマンの名前です。彼女はいまはインドに行ってボリウッドの有名撮影監督になっているらしいです。彼女は恋愛感情とかではなくて映画制作の戦友として思い入れがある名前ですので、映画の中でモチーフとして使わせてもらっているんですね。

  • :走る、飛ぶ、登るといった移動動作によって心身を鍛えるスポーツ。『TAXi2』(2000年・仏/ジェラール・クラウジック監督)や『YAMAKASI ヤマカシ』(2001年・仏/アリエル・ゼイトゥン監督)ほかリュック・ベッソンが脚本などで携わった映画のアクションに取り入れられ、障害物を飛び越える、壁をよじ登るなどのアクロバティックな動きが注目を集めた。日本でもさまざまな映像作品でパルクールが取り入れられている。

「肩の力を抜いて、89分だけ嫌なことを忘れていただければ、それが本望です」

―― 監督は高校生のときに渡米されて、ずっとアメリカでの映画作りを経験されてきていらっしゃるのですね?

光武:そうなんですよ。『KARATE KILL』では1日だけ日本で撮影させていただいたんですけど、全体を日本で撮影したことはないんですよね。だから、日本だと「よーい、スタート!」って言ってからカチンコを打ちますよね。だけど向こうはカチンコを打ってから「Action!」なので、そういうところがわからなかったりしますね。ぼくは向こうで映画制作を学んだのでスタイルとしてはアメリカのスタイルになっているんですけど、日本でも撮らせてもらえるように日本のやり方もこれから勉強したいと思っています。

―― そうすると今回は、アメリカのスタイルに日本の俳優の方々やスタッフの方々に参加してもらうという感じでしょうか?

光武:そうですね、まさに、いまのところのぼくの監督としてのセールスポイントは「日本の低予算映画をアメリカで撮れますよ」というところですので、スタッフに関してはほぼ現地採用のアメリカ人スタッフです。メイクさんとか特殊メイクの方とかは日本人なんですけど、ロサンゼルスに住んで仕事をしている方なので、その方たちも現地採用ですね。今回はアクション部だけが日本から来てくれて、キャスティングも主要の数人以外はアメリカでやったキャストオーディションで選んでいますので、出資は日本だから日本映画なんですが、制作体制としてはアメリカ映画という感じです。

―― 日本から参加されたキャストの方々や、何人かのスタッフの方々はアメリカのスタイルに戸惑われるというようなことはなかったのでしょうか?

光武:うーん、たぶん、アメリカのスタイルを一番経験していないのはハヤテだったと思うんですね。亜紗美は『女体銃』で同じ体制を経験していますし、キャバクラの店長役で参加してもらった鎌田規昭ももともとLAで俳優活動をしていて日本に帰ってきたので彼のキャリアではアメリカの撮影スタイルのほうが長いくらいですし、アクション監督の田渕もアメリカで舞台の演出を手伝っていたりしてアメリカ在住の日本人やアメリカ人のスタッフとやっていますので、みんな戸惑いはなかったんじゃないかなあ。あとは、紗倉まなさんがひじょうにアメリカの現場に感動して、これだけ楽しい現場は初めてだと言っていただけていたというのはぼくの耳に入っています。アメリカ人スタッフって、ハヤテのスタントが成功したり、まなさんにもアクションシーンをやってもらっているんですけど、それがうまくいくと自然にスタッフが拍手したりするんですよ。それがOKな現場なので、撮影しているのにお客さんがいるみたいな和気あいあいとした状況なので、たぶんそれを1回経験するとやみつきになるんだと思います。

―― 監督がアメリカでの映画作りで、こういう部分がいい点だと感じるところがあれば教えていただけますか?

『KARATE KILL /カラテ・キル』スチール

『KARATE KILL /カラテ・キル』より。亜沙美さん演じる謎の女・ケイコとケンジ

光武:ぼくはまだ、日本の第一線で活躍してハリウッドに招聘されて予算のあるスタジオ映画を撮るような大監督ではないので、アメリカの大作のいいところとかは語れないのですが、やっぱりロサンゼルスというのはいろいろ変化しているとはいえ「腐っても映画の都」なんですね。だからがんばればいろいろなものが撮れるんです。たとえば今回の映画ではトレーラートラックが暴走するシーンがあるんですが、ああいうシーンは日本の低予算映画だとなかなか撮れないと思うんです。あの暴走トラックは『ワイルド・スピード』シリーズ(2001年~・米)とか新しい『マッドマックス』(=『マッドマックス 怒りのデス・ロード』2015年・米/ジョージ・ミラー監督)で大型トラックのスタントなんかを担当している大ベテランのスタントドライバーがやってくれていて、使ったトラックもその人の自前なんですよ。「ああ、俺いま仕事と仕事の合間で暇だからやってやるよ」みたいな感じでやってくれたり、暴走しているところを撮るのも道路を封鎖したりするとお金がかかるので我々の制作部がいろいろ探したら、ロサンゼルスから車で2時間半くらいの郊外にカリフォルニアシティという小さな町があって、そこに主に農業用のセスナが発着する空港があると。そこは2本滑走路があるので1本は貸し切りにできるというので、そこで暴走トラックを走らせようと。やっぱりそれは映画の都だから撮れることで、そういうことができるのがアメリカの魅力ではないですかね。『女体銃』のときはアメリカだから実銃でガンアクションができるとか、今回の『KARATE KILL』は拳銃映画ではないのでそこまでやっていませんけどやはりケイコが扱う銃の中には実銃がいくつかありますし、日本ではどんな大作でも本物の銃は出てこないわけじゃないですか。それがアメリカだからできるというよさはあると思います。

―― もうひとつお尋ねしたいことがあって、基本的に『KARATE KILL』は難しいことを考えずに観られる娯楽作品だと思うのですが、悪役であるカルト集団教祖の思想ですとか、ケイコが元・自衛官という過去が語られる部分に、監督が現在の日本に感じられることが表現されているのかなと思いました。それは実際のところいかがでしょう?

光武:まあ、ぼくは次世代の山本薩夫だと思っていますので、というのは冗談ですけど(笑)、山本薩夫監督にしても、小林正樹監督にしても、昔の監督というのはちゃんと自分の思想なり理想なりを娯楽作品に昇華させていたと思うんですよね。それは深作欣二監督ももちろんそうだし、ぼくの師匠の岡本喜八監督もそうですし、やっぱりぼくはそこに理想はありますね。なにか世の中がちょっとおかしくなっている、政治家たちのアジェンダが先行してしまって果たして人々はその方向に向かいたいのかがボカされながら進んでしまっているんじゃないかという気がぼくはするんです。なので、説教をするつもりは全然ありませんし「時代への警告」などと言うとおこがましいのですが、少しはね、そういうことも醸し出せたらいいなというのはありますね。ぼくは海外の監督ですごい尊敬しているのはサム・ペキンパーであったりポール・バーホーベンで、彼らの映画というのはやはりちょっとポリティカルじゃないですか。特にバーホーベンはそういうことを風刺的に絡めたりしますし、それはぼくも憧れるところであり、表現者としてやらねばならぬことなんじゃないかなというのはありますね。

―― では最後に、映画をご覧になる方へのメッセージをお願いします。

光武:そうですね、ちょうどいまの質問で難しい映画なのかと思われたら嫌だなというのがありまして(笑)。

―― すみません(笑)。

光武:いやいや(笑)。いろいろな想いをひっくるめていますが、ぼくは映画は基本的にエンターテイメントだと思っていますし、『KARATE KILL』は娯楽映画です。こういう世知辛いご時世だからこそ、肩の力を抜いて、89分だけ嫌なことを忘れていただければ、それがほんとにこの映画の存在意義といいますか本望です。嫌なやつを殴り飛ばすって実社会じゃできないですよね。それを映画の中でやっているハヤテの勇姿をぜひ観にいらしてください。

(2016年8月3日/マメゾウピクチャーズにて収録)

作品スチール

KARATE KILL /カラテ・キル

  • 脚本・監督:光武蔵人
  • 出演:ハヤテ 紗倉まな 亜紗美 鎌田規昭 ほか

2016年9月3日(土)よりシネ・リーブル池袋にてレイトショー ほか全国順次ロードショー

『KARATE KILL /カラテ・キル』の詳しい作品情報はこちら!

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