6月7日に公開の迫った滝野弘仁監督『くまをまつ』に、脚本家の宮藤官九郎さんや俳優の染谷将太さん、映画監督の横浜聡子さんら、各界著名人が寄せたコメントが解禁されました。また、初日舞台あいさつなど劇場でのイベント開催も発表されました。
これまで助監督として多くの作品に参加してきた滝野弘仁監督の長編デビュー作となる『くまをまつ』は、新作を執筆する脚本家の「ややこ」と、夏の間ややこに預けられることになった9歳の甥「タカシ」が、古民家で過ごすひと夏を描くストーリー。
石川県出身の滝野監督が、亡き祖父が暮らしていた同県小牧市の古民家に滞在して脚本を執筆、その古民家や周辺を中心にロケをおこない、滝野監督自身を登場人物に投影したような、創作と記憶にまつわる物語が描かれていきます。
濱口竜介監督『親密さ』(2012年)で主演をつとめた平野鈴(ひらの・れい)さんがややこを、テレビドラマなどに出演しこれが映画初出演となる子役の渋谷いる太さんがタカシを、それぞれ演じて主演をつとめるほか、中村映里子さん、大場みなみさん、松浦りょうさん、内田周作さんら実力派俳優や、竹内啓さん、星能豊さんら石川県出身の俳優陣が出演しています。
昨年開催の第37回東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門に正式出品され注目を集めた『くまをまつ』が、6月7日より東京のポレポレ東中野で公開。
公開に向け、映画関係者など各界著名人が作品に寄せたコメントが解禁されました。
コメントを寄せているのは、話題作「不謹慎にもほどがある!」(2024年)や監督もつとめた「季節のない街」などドラマや映画で多くの作品を手がける脚本家の宮藤官九郎さん、公開の迫る『海辺海辺へ行く道』(2025年)などの映画監督・横浜聡子さん、『窓辺にて』(2022年)などの今泉力哉さん、監督作『BAUS 映画から船出した映画館』(2025年)が話題の映画監督・ミュージシャンの甫木元空(ほきもと・そら)さんら、滝野監督が助監督として参加してきた監督たちや『BAUS 映画から船出した映画館』主演の俳優・染谷将太さんら。
宮藤さんが「そんなにたくさんの映画を観てきたわけではないけど『くまをまつ』は他のどの映画にも似てない。」、染谷さんは滝野監督を愛称「チャーリー」で呼び「チャーリーさん素敵な映画をありがとう。 」と綴るなど、それぞれが作品の魅力を語っています。
脚本家:宮藤官九郎さんコメント
そんなにたくさんの映画を観てきたわけではないけど『くまをまつ』は他のどの映画にも似てない。
それなのに共感できるのは、幼少期の夏休みという、尊くムダな時間が過不足なく描かれているからだ。大人の都合で与えられる受動的な自由時間。親戚の家の暗がりとか、そういえば怖かったもんなあ。夜中の物音とか。オリジナリティと既視感。潜在意識に擦り込まれていた映像を改めて観ているみたいだった。 滝野監督はこういう繊細で美しい映画を撮る人なんだ。付き合い方を改めないといけないなと思った。
俳優:染谷将太さんコメント
人の記憶は、感情と共にそこら辺に落っこちているのかもしれない。それに触れたり、拾ったりするのは、覚悟と体力がいることなのか もしれない。けどもその行為は、人に成長をもたらせてくれるのかもしれない。堂々としていて腰の座ったショットの連続が潔く、そ の視点から観る2人のある種の冒険が、観る者に栄養を与えてくれる。チャーリーさん素敵な映画をありがとう。
映画監督:横浜聡子さんコメント
じっと「見る」ことで時空を超えた記憶に出会い、ひそやかに成長してゆくタカシと、おぼろげで曖昧な記憶を脚本に書き留めることで 忘却の不安から逃れようとするややこの対比が面白い。
最後、ややこは書くことをやめ、タカシは目を閉じる。
書かずとも見ずとも、この夏の記憶はいつでも取り出せる”現在”となって彼らの中で生き続けるのかもしれない。
映画監督:今泉力哉さんコメント
創作において。恋愛において。人間関係において。
相手が自分のためになにかしてくれることは当たり前じゃないんだと思う。
会えてしまうこと。会わない方がいいこと。会えない方がいいこと。
美しい声と景色を浴びながらいろんなことを考えました。
映画監督・ミュージシャン:甫木元空さんコメント
子供の頃誰もが迷い込んだであろう永遠に引き伸ばされた夏。
舞台は監督の故郷石川・小松市。国道から見える石切場。あの大きな穴に人々は吸い寄せられる。 あの闇に堆積した記憶の中で鳴り響く、貴方や私の物語。
くまは必ず待っている。
忘れられない夏がここにはある。
劇作家・映画監督:玉田真也さんコメント
夢と現、創作上の妄想と現実の生々しい人間関係の葛藤、過去と現在、いくつもの線が同時に走って複雑でありながら腑に落ち る、観ている側の身体にしっかりと入ってくる物語は、たしかな構成力と演出力があってこそだと思います。主人公の少年の目を通した不思議な旅行がとても心地よかったです。
文筆家・労働団体職員:西口想さんコメント
日めくりカレンダーをめくると、ある一日が始まって終わる。そのような、関係があるともないともいえない、一つのアクションとそれを 受け止める世界との間にあるわからなさを静かな驚きをこめて描いた映画。記憶と創作をテーマとするこの作品で、加害者の 居直りや忘却に都合のよいわからなさ、不確かさに陥らないところも良かった。
『くまをまつ』場面写真。平野鈴さん演じるややこ(右)と、渋谷いる太さん演じるタカシ
また、初日舞台あいさつをはじめ、ポレポレ東中野でおこなわれるイベント内容も発表されました。
6月7日開催の舞台あいさつには、主演の平野鈴さんと渋谷いる太さん、共演の大場みなみさん、内田周作さん、松浦りょうさんの出演者5人と滝野弘仁監督が登壇。
公開2日目以降は、コメントを寄せている宮藤官九郎さん、今泉力哉さん、甫木元空さん他、映画監督や俳優ら豪華ゲストを招いてのトークイベントが連日開催されます。
脚本家と少年のひと夏を通して「創作すること」がもたらす痛みを描いていく『くまをまつ』は、6月7日土曜日より、東京のポレポレ東中野ほか全国順次公開されます。
『くまをまつ』ストーリー
脚本家のややこは、昨年死んだ祖父・隆二郎の古民家に滞在し、祖父の遺した日記を題材に新作を執筆している。そんなさなか、姉の仕事の都合で、夏の間だけ甥(おい)の少年タカシを預かることになる。これまで交流のなかった2人だが、ややこはタカシを昔の自分と重ね合わせて執筆中の脚本に取り入れようとする。そんな思惑も知らず、タカシは夜中に見た“黒い影”や謎めいた青年、ややこの元恋人との出会いを経験しながら夏を過ごす。やがて夏の終わりに、タカシは深い石切場の奥で隆二郎の古い記憶に触れる。そしてややこは、創作を通して自らの“罪”と向き合うことになる。